デザイナーに訊くアイデア発想方法:前編

アイデア出し能力が頻繁に問われるデザイナー。

そんなアイデア発想のプロともいえる、デンソーの プロダクトデザイナー:岡本さん
を取材させていただき、デザイナーならではのアイデア発想方法 についてお聞きしました。

夢卵アイデア出しにおいても、学ぶべきところが非常に多かったので、是非ご覧ください。

プロダクトデザイナー 岡本 陽(おかもと あきら)さん。
岡本さんの手掛けた先進的ECUのデザイン (下記リンク) は必見。
 ―まずは、岡本さんの紹介をお聞きしても良いですか?

岡本 陽(おかもと あきら)です。35歳です。

化粧品会社でパッケージデザインをしていたんですけど、スタイリングだけでなく、
より機能に紐づくデザインがしたい、より多様な製品のデザインがしたいという思いから縁あってデンソーに転職しました。

今やっているのは冷凍機や故障診断機などの自動車関連製品や FA 関連機器の量産デザイン。
ジェネレーティブデザインという AI を用いたデザイン手法の活用といった先行開発なども行っています。

https://www.autodesk.co.jp/redshift/denso-ecu/
軽量化と放熱性能を両立できる新しい形を考え、ジェネレーティブデザインを活用して生み出されたECU。


ドイツの「iF デザイン賞」や「グッドデザイン賞」、前の会社では「パッケージデザイン賞」などを受賞しました。一応、ちゃんとしたデザイナーです(笑)

 ― 岡本さんがアイデアを考える上で、“一番大事にしている” ことがあれば教えてください。

めっちゃあるから、1個だけって言われると結構困る…。

 ― 1個じゃなくて大丈夫です

アイデアは要素の組合せ。5ステップで出せる。

 僕の考えだと、
アイデアは新しい要素の組合せでしかない。
で、実は5ステップで出せる。

アイデア発想について語りを進める、岡本さん

これは有名な本があって、『アイデアのつくり方(著:ジェームス.W.ヤング)』という本。
この中で言われていることをステップに分けると、5個だな、と。

それが、これです。

  1. アイデアを出すための材料集め
  2. 材料を組み合わせる
  3. あえて心の外に置く
  4. 常にその事を考える
  5. アイデアを具体化し形にする

1.アイデアを出すための材料集め

まず素材集め、ですけど、この本でも言われているのは、
『2種類の素材を集める』こと。

1つは、一般素材。世の中の面白いことを自分の中に蓄積していく。これは日々の鍛錬に近いと思っています。僕は、新しいデザインを紹介しているサイトや、Pinterestとか見ていますね。

 ― 毎日チェックは当たり前ですか?

もう空気を吸うように。

 ― (笑)


もう一つは、特殊素材。何かのアイデアを出したいっていう、その対象の情報。
ここでは『一流のユーザーになる』 ということが一番強いと思っています。それこそ趣味っていうのは、もう一流のユーザーなんですよ。特殊素材が既に集まっている状態。

困りごと(課題)は、”流れが止まるところ”

 次は、オブザベーション。
アイデアって、困りごとがあるから出てくると思います。

アイデアを出したい対象を観察すると、”流れが止まるところ”、があるんですよ。
なんだろう、すごく気持ちよく進んでいるところで、一瞬止まってしまう、あの違和感
そういう『心の声』 みたいなのが、結構重要になったりします。その違和感はすぐに消えてしまうのでメモしておくと良いですよね。

2.材料を組み合わせる

集めた材料の組合せは、それこそ「オズボーンのチェックリスト」とかで。

瞬時に脳内で「オズボーンのチェックリスト」を実践して、アウトプットしています。

チームでやるなら、ブレスト。あれは複数人のアイデアを強制的に組み合わせて、アイデアを出してますよね。一人でそれと近い状況を作れるのが、スケッチ。

アイデア発想で意識しているのは『数を出すこと』

 心掛けているのは、数を出すこと。プロジェクトの質やフェーズにもよりますが、100案とかは普通に出します。考えられるパターンを出来る限り描き出す。いいアイデアをつくるには、このプロセスが必要だと考えています。

ー やっぱり描くと、また違うアイデアが出てくることがあるんですか?

ありますね。
描いているうちに、客観視できる ので、 描いたものを見て、新しい形をひらめく。
で、手を動かして描く のは、脳への刺激が広範囲に及ぶため脳が活性化するんです。実は描く指の動きはタイピングの1000倍あるんですよ。脳への定着が高まるのはよく知られていますが、ひらめきも1000倍になるんじゃないかなぁって。

道具にもこだわっていて、iPad や、ドイツで買ったやわらかい書き味の万年筆、紙質の良いスケッチブックなどで、自分のテンションをあげるようにしています。

21_21 DESIGN SIGHT で開催されているマル秘展っていうデザイナーのスケッチを公開しているイベントに先日行きましたが、やっぱ日本を代表する巨匠はみんな描いてますね、手描きで。

http://designcommittee.jp/maruhi/

なので、やっぱり描くことへのこだわりは重要ですね。

描くことの重要さを語る岡本さん(記事では足りない程、想いを語られています。)


アイデアスケッチは要点が伝われば良い。

ー アイデア発想に手描きが良いというのが分かりました。その際に我々でもできるスケッチのコツなど教えていただけないですか?

コツか…難しいなあ…。自分が分かれば良い…。(笑)

基本的にアイデアを出すためのスケッチは、人に見せるものではなく、自分の頭の中を整理することに近いんですよ。
要点が伝われば、スケッチの上手い下手はあまり気にしなくてよいと思います。

とはいえ、ちょっとでも上手く描きたいという方は、観ること をお勧めします。
『描くというのは、結局は観察すること。』だと美大などでも言われています。
描く前に、1~2分間観察すると、出来上がりが全く違います。

AirPods の観察スケッチ。普段気づかない、繊細な工夫点が描かれている。


その他の描く時のコツとしては、

  • いきなり立体は難しいからまずは平面で描いてみる。一筆描きレベルで。
  • 直線と丸が綺麗に描けると少しうまく見える。
  • 小さく描くと下手さは気にならないから数が出せる。親指の爪くらいのサイズ(よくサムネとか言いますよね)。

とかですかね。


ー後編に続くー